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神戸地方裁判所 平成4年(ワ)1124号 判決

原告

東勇人

被告

緒方克也

主文

一  被告は、原告に対し金一一六万〇三六九円及び内金一〇四万〇三六九円に対する平成二年四月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その七を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し金九八一万九二六〇円及び内金九〇一万九二六〇円に対する平成二年四月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実など

1(本件事故の発生)

次のとおりの交通事故が発生した(以下「本件事故」という)。

(一)  日時 平成二年四月二九日午後三時二五分頃

(二)  場所 神戸市中央区磯辺通四丁目二番六号先交差点(以下「本件交差点」という)内

(三)  加害車 被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という)

(四)  被害車 原告運転の原動機付自動(ママ)車(以下「原告車」という)

(五)  態様 本件交差点内を南方から東方へ向かつて右折しようとした原告車に対し、対向車線を北方から南進してきた被告車が衝突。

2(被告の責任)

被告は、本件事故当時、被告車を保有し、これを自己の運行の用に供していたから、自賠法三条に基づき、原告が同事故によつて被つた損害を賠償すべき責任を負う。

3(原告の受傷内容と治療経過等)

原告は、本件事故によつて頭部外傷Ⅱ型、頸椎及び腰椎捻挫、左膝関節靱帯損傷、左膝外側半月板断裂、左脛骨外顆骨折等の傷害を受け(以下「本件受傷」という)、以下のとおり入通院して治療を受けた(甲三ないし一一号証、二二ないし二五号証、原告本人の供述)。

(一)  神戸市立中央市民病院

平成二年四月二九日から同年五月二三日までの間 入院(二五日)

その間の五月七日 左膝関節靱帯損傷修復術等施行

同月二四日から同年一二月一四日までの間 通院(実日数一〇日)

(二)  神戸博愛病院

同年五月二三日から同年九月一七日までの間 入院(一一八日)

同月一八日から平成三年一月三一日までの間 通院(実日数三九日)

4(本件後遺障害)

原告は、平成三年一月三一日、症状固定と診断され、後遺障害につき、自賠責保険において一二級五号に該当する旨の認定を受けた(原告本人の供述及び弁論の全趣旨)。

5(損害の填補)

原告は、これまでに、本件事故による損害の填補として、被告側から治療費分として金四七万九八五五円、内払金として金七二万〇一四五円及び自賠責保険から金二一七万円(乙五号証)の合計金三三七万円の支払を受けた。

二  争点

1  損害額の算定

被告は、原告主張の損害の費目及び金額についてその大半を争うが、とりわけ、後遺障害による逸失利益の算定について争つている。

2  過失相殺

(被告の主張)

被告車は本件交差点内を青信号に従つて南進、通過しようとしたところ、原告車は、相当の速度で、南行車線の渋滞中の車両間から、南方から東方に向かつて右折しようとして飛び出してきたのであるから、原告には、前方の安全確認を怠り、徐行せずにそのまま右折しようとした過失があり、原告の損害額の算定に当たつては七割を下回らない過失相殺をすべきである。

なお、原告は、本件事故当時、被告から本件交差点の対面信号の表示を確認することは街路樹の枝葉に遮られてできなかつたはずであるから、右信号が青色表示であつたとする被告及び被告車の同乗者訴外西岡裕美子(以下「西岡」という)の各供述は信用できない旨主張し、同主張を裏付ける証拠として平成四年五月二四日(本件事故後約二年一か月経過)撮影のビデオテープ(検甲一号証)を提出するが、撮影日時及び撮影位置、樹木の剪定具合等が違えば、右信号機に対する見通し状況が異なることは当然であるから、右ビデオテープは決め手になり得るものとはいえないし、被告及び西岡が被告車の対面信号が青色表示であつたことを確認した旨供述していることからすれば、原告の右主張は理由がない。

(原告の反論)

(一) 被告は、被告車は青信号に従つて本件交差点内を南進、通過しようとした旨主張するが、目撃証人とされる伊藤令子(以下「伊藤」という)の証言、被告及び西岡の各供述は、原告の供述内容や信号機の表示サイクル、本件事故現場における周辺車両の動き等と対比すると、いずれも不確かで信用性に欠けるから、被告車が同交差点内に進入したときの対面信号が青色表示であつたとは考えられない。

むしろ、原告は、右折に当たり、本件交差点北西角にある信号機が赤色表示であることを確認していることや対向車線上のタクシーが後退して原告車の右折進路を空けてくれたことなどからすると、原告車の右折開始時点では南北道路の信号は赤色表示であつたから、被告車の対面信号は当然赤色表示であつたといわなければならない。

そして、本件事故当時、南行車線上には街路樹の枝葉がせり出していたため、被告が対面信号の表示を確認することは枝葉に遮られてできなかつたはずであるから、対面信号が青色表示であることを確認したとする被告及び西岡の各供述は信用できない。

(二) 以上のとおり、本件事故時において被告車の対面信号は赤色表示であつたと考えられること、また、原告が同事故によつて原告車ごと約二〇メートルも被告車進路前方にはね跳ばされていることからみて、同車の速度は時速五〇ないし六〇キロメートルを上回る速度であつたと考えられることや被告は運転中に西岡との会話に気をとられていたと考えられることなどからすると、本件事故発生につき、原告には落度は存せず、仮にあつたとしても、せいぜい一ないし二割程度にすぎない。

第三当裁判所の判断

一  損害額の算定

1  治療費 合計金七四万六三二九円

(一) 神戸市立中央市民病院分(乙六号証) (金一〇万五四四〇円)

(二) 神戸博愛病院(甲六号証、二〇号証の一ないし三、乙六号証) (金六四万〇八六九円)

2  装具代(原告本人の供述、弁論の全趣旨) 金八万八七一四円

3  入院雑費(請求額金一八万五九〇〇円) 金一八万四六〇〇円

原告が本件受傷の治療のため神戸市立中央市民病院に二五日間に入院し、その間前記手術を受け、その後神戸博愛病院に転医して一一八日間入院したことは前記判示のとおりである。

そして、原告の本件受傷の内容及び程度等からすると、一日当たりの入院雑費の額は金一三〇〇円の割合が相当であるから、合計一四二日間(一日は重複)分についてこれを計算すると、金一八万四六〇〇円となる。

4  入院付添看護費(請求額金八一万円) 金三九万五〇〇〇円

証拠(甲一三ないし一五号証、二二ないし二五号証[特に、二三号証の五枚目]、原告本人の供述)によると、原告(昭和四三年一月一三日生)は、本件事故直後、意識障害のある状態で、救急車により神戸市立中央市民病院に搬送されたこと、原告は、同病院において、左膝につき前記手術を受け、しばらくの間左足をギプスで固定されていたため、起居動作に支障があり、さらに、その後には後頸部痛等が生ずるに至つたこと、同病院の担当医は、同病院では完全看護とされているものの、原告の右症状の内容等に照らし、前記二五日間の入院期間を通じて近親者による付添看護を要する旨判断したこと、また、神戸博愛病院の担当医も、同病院入院期間のうち、平成二年五月二三日から同年七月一六日までの間の五五日間については、右付添看護を要する旨判断したこと、そして、原告の母は、自己の仕事を休んで、本件事故当日から平成二年七月一八日までの八一日間にわたつて原告の付添看護に当たつたことが認められる。

右認定の事実関係に基づくと、入院付添看護費は、入院付添いの必要性についての医師の診断の存在する本件事故当日から平成二年七月一六日までの七九日間(一日は重複)について、一日当たり金五〇〇〇円の限度で認めるのが相当であるから、これを計算すると、金三九万五〇〇〇円となる。

5  通院交通費(請求額金二万七三三〇円) 金二万五二三〇円

まず、原告は、通院交通費を裏付ける証拠として甲二一号証の一ないし一六(タクシー料金の領収書)を提出するところ、その内容を原告本人の供述及び甲三号証に基づいて仔細に検討してみると、右領収書中には、原告が神戸市立中央市民病院に通院した際に要した交通費に関するもののほか、本件事故当日における家族らの同病院への駆付けに要した交通費、転院の際に要した交通費、原告が神戸博愛病院入院中に警察官による実況見分立会いのために同病院との間を往復するのに要した交通費や原告が右入院中に原告宅に立ち寄つた上で神戸市立中央市民病院に通院した際の交通費に関するものなどが含まれていることが認められるが、その内容に基づくと、これらの交通費は、いずれも本件事故のために支出を余儀なくされた損害と考えられるから、甲二一号証の一ないし一五記載の合計額金二万五二三〇円は、同事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

もっとも、甲二一号証の一六については、金額の記載自体が不明瞭である上、同日付けで他に二通の領収書(同号証の九、一〇)が存在することに照らすと、これをもつてにわかに本件事故と相当因果関係のある交通費とまでは認め難い。

6  休業損害 金一〇八万五〇〇〇円

証拠(甲一六、一七号証、二三号証の一六枚目、原告本人の供述)によると、原告は、大学卒業後の平成二年四月一日、トーヨーサツシ株式会社に正式採用され、同社住宅建材本部営業部関西支店神戸営業所に勤務(営業担当)していたが、右採用後一か月に満たない間に本件事故に遭つたこと、原告は、本件受傷及びその治療のため、同事故当日から平成二年九月三〇日までの一五五日間にわたつて休業したこと、また、原告は、同社から、同年五月分給与として、金二一万〇一九八円を受け取つたことが認められる。

右認定の事実関係に基づくと、原告は本件事故によつて一五五日間にわたつて休業を余儀なくされたこと、そして、原告の右当時の給与は原告主張のとおり一日当たり金七〇〇〇円程度であつたということができるから、以上に基づいて計算すると、原告の休業損害額は金一〇八万五〇〇〇円となる。

7  賞与減額分 金二八万六一二五円

証拠(甲一八号証、原告本人の供述)によると、原告は、前記休業によつて、平成二年冬季分の賞与において、金二八万六一二五円を減額されたことが認められる。

8  後遺障害による逸失利益(請求額金二九八万九八六二円) 金二九八万九八二四円

(一) まず、原告が平成三年一月三一日症状固定と診断され、後遺障害につき自賠責保険において一二級五号に該当する旨の認定を受けたことは前記判示のとおりである。

そして、右事実と証拠(甲一一号証、二二ないし二五号証、原告本人の供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、神戸市立中央市民病院における前記手術では、左膝外側半月板切除、断裂した靱帯の修復・形成、脛骨欠損部に対する左腸骨移植等が行われ、しばらくの間、右患部がボルトやワイヤー等で固定された上、左足がギプスで固定されていたこと、原告は、神戸市立中央市民病院退院後、歩行訓練等のリハビリを続けたが、前記のとおり、平成三年一月三一日(満二三歳)、神戸博愛病院において症状固定との診断を受けたこと、原告は、その際、左膝について関節の動揺性や可動域制限、屈曲時の疼痛、頸椎の可動域制限、項背部から腰部にかけての傍椎筋群の緊張感や圧痛等の後遺障害が残り、今後、これら症状の緩解は期待し難いと診断されたこと、そして、原告は、同年八月頃、前記トーヨーサツシを退職し、現在、ダイキンプラント株式会社に勤務して営業の仕事をしているが、依然、左膝について不安定感や長距離歩行の支障、運動困難等を感じているほか、正座や屈曲時に痛みを感ずること、そのため、原告は、重い荷物を持つ仕事には就けない上、前記頸部や項背部から腰部にかけての症状のため、長時間にわたる座り仕事が困難になつていることが認められる。

以上の事実関係を総合して考えると、原告の後遺障害は、前記骨移植にかかる腸骨の変形(一二級五号所定)が認められるというだけでなく、前記左膝関節部の障害の存在によつて、全体として一二級相当の後遺障害が存在すると認めるのが相当である。

そして、以上のような後遺障害の内容及び程度に加え、原告の年齢や職種内容、いわゆる労働能力喪失率表を斟酌すると、原告は、前記症状固定時の満二三歳から一〇年間にわたつて、その労働能力を一四パーセント喪失したと認めるのが相当である。

なお、被告は、原告が前記ダイキンプラントにおいても社内基準に従つた給与を得ているから、後遺障害による逸失利益は存在しない旨主張するが、前記判示にかかる後遺障害の内容及び程度、原告の年齢、今後の職種選択や転職に際しての制約等を総合して考えると、前記認定説示のとおりの逸失利益の発生を肯認するのが相当であり、これに反する被告の右主張は採用しない。

(二) そして、前記6及び7でみた前記トーヨーサツシ勤務時の賞与を含めた収入額からすると、原告は、前記症状固定時において、いわゆる年令別平均給与額表における満二三歳の男子労働者の平均月額である金二二万四〇〇〇円程度の収入を上げ得たと認められる。

そこで、右金額を原告の基礎収入額とした上、中間利息の控除について新ホフマン方式を用いて、前記認定説示に基づき、原告の後遺障害による逸失利益の現価額を計算すると、次の算式のとおり、金二九八万九八二四円となる。

二二万四〇〇〇(円)×一二×〇・一四×七・九四四九=二九八万九八二四(円)

9  慰謝料 合計金四〇〇万円

これまでに判示して本件受傷の内容及び程度、入通院期間、治療経過等を総合すると、原告の入通院慰謝料は、金一六〇万円が相当であり、また、前記後遺障害の内容及び程度、現在の生活状況等を総合すると、後遺障害による慰謝料は、金二四〇万円が相当である。

10  損害額の小計 合計金九八〇万〇八二二円

二  過失相殺

1  本件事故の発生状況

本件事故発生に関する前記判示の事実と証拠(甲一号証の一ないし四、二号証の一ないし七、一九号証の一ないし六、二六号証、乙四号証、検甲一号証(ビデオテープ)、検乙一ないし五号証、証人伊藤令子及び同西岡裕美子の各証言、原告[ただし、後記採用しない部分を除く。]及び被告本人の各供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(一) 本件交差点は、南北道路(通称「フラワーロード」)に東行道路(一方通行)が交差する交差点であり、神戸市内の中心地に位置し、交通量は頻繁である。

同交差点では、信号機による交通整理が行われているところ、北詰に位置する東西の横断歩道については歩行者用の押しボタン信号となつているが、同交差点の信号機の全表示サイクルは、同交差点南方に位置する税関前交差点(神戸市中央区浜辺通七丁目所在)の信号機の表示サイクルとは連動関係にない(各信号機の表示サイクルは別紙のとおり)。

(二) そして、南北道路は、本件交差点付近では、北行車線は四車線であり、そのうち中央分離帯寄りの車線は前記東行道路(幅員約九メートル)に対する右折専用レーンとなつており、また、南行車線は四車線(各車線の幅員は約三メートル)であるが、本件事故当時、東側歩道側の車線(第一車線)には駐車車両等があり、したがつて、一般車両は概ねその余の三車線を走行している。

なお、制限速度は、時速五〇キロメートルとされている。

(三)(1) 被告は、本件事故当日(平成二年四月二九日。休日)午後三時二五分頃、友人の西岡を左側助手席に同乗させて被告車を運転し、当初、南行車線の東側歩道側から三番目の車線(第三車線)を走行していたが、混んでいたため、その左(東)側の車線(第二車線)に変更した上、時速約五〇ないし六〇キロメートルくらいの速度で南進していた。

(2) 右当時、南行車線のうち、第三車線及び第四車線は、本件交差点北側手前から税関前交差点にかけて渋滞しており、のろのろとした速度で流れていた。

(3) そして、被告は、本件交差点北側手前において、約二二、三メートル前方の対面信号が青色表示であることを確認し、前記速度のままで、南行第二車線を南進し、第三及び第四車線では渋滞中の車両が続いていたが、進路右方に対しては格別注意することなく、同交差点内を直進、通過しようとした。

(四)(1) 一方、原告は、その頃、原告車を運転して北行車線を北進し、前記東行道路に向かつて右折東進しようとして、本件交差点南側手前において前記右折レーンに入つたところ、対向車両がかなり混んでいたため、右折レーン内でいつたん停車した。

(2) 原告は、間もなく、目の前の南行第四車線上の対向車両に途切れができたため、原告車を発進させ、加速しながら右折しようとしたところ、南行第二車線上において、折から前記のように南進してきた被告車と衝突し、約二〇メートル南方にはね跳ばされて、路上に転倒した。

(3) なお、原告は、右発進に当たり、本件交差点北西角及び同北東角にある対面信号の表示を確認することはしなかつた。

(五)(1) ところで、伊藤は、ほぼ同じ頃、南行第三車線を南進し、本件交差点北側手前において、赤信号のためいつたん停車した後、青信号に変わつたため、のろのろと歩くくらいの速度で南進し、前記横断歩道を通過したところ、先行車がつかえてきたため、北行車線から右折してくる対向車両があるかもしれないことを予測して、そのような車両が自車前方を通過できるよう車両一台分くらいを空けて再び停車した。

(2) そして、伊藤は、しばらくして先行車が発進したため、続いて自車を発進させ、加速したところ、そのわずか数秒後、右停車地点から約一四メートル(本件交差点北側手前での前記停車地点からは約四一、二メートル)南進した地点において、本件事故の衝突音を聞いた。

(3) 伊藤は、本件交差点北側手前での停車地点から対面信号が青色表示に変わつたのに従つて発進する際、同交差点南方の税関前交差点の南行信号もまた青色表示であつたことを確認しており、そして、その後も進路前方を見ていたが、右衝突音を聞くまでの間、税関前交差点の南行信号が青色表示から他の表示に変わるようなところは見ていない。

2  補足説明

(一) ところで、原告は、前記右折レーンに入る時点で対面信号が赤色表示であることを確認したから、右折開始時点では南北道路の信号は赤色表示であつた旨主張し、原告本人もこれに沿う供述をしている。

しかしながら、被告及び西岡の両名がいずれも本件交差点進入直前において対面信号が青色表示であることを確認した旨供述しているのに対し、原告自身、右折開始に当たつて対面信号の表示を確認しなかつたことは前記認定のとおりであるし、また、前記甲二六号証及び乙四号証によると、本件交差点の南北道路の信号は、常時青色を表示しており、前記歩行者用の押しボタン信号が押された場合に限り、その九一秒後に青色表示から黄色表示(四秒間)に変わることが認められるところ、本件証拠を仔細に検討してみても、本件事故直前において、前記横断歩道周辺において横断中の歩行者がいた様子は全く窺われない。

また、前記認定にかかる伊藤の信号機の表示に関する目撃内容及び運転状況、進行速度と前記各証拠を総合して考えると、税関前交差点の南行信号の青色表示は四五秒間であり、本件事故はその表示が続いている間に生じたと認めるのが相当であるところ、これに本件交差点の信号機の表示サイクルを併せ考えると、同事故は、本件交差点の南行信号との関係でも、青色表示継続中の間に生じたと認められるというべきである。

なお、伊藤証言中には、本件交差点北側手前での停車地点から発進した後から前記衝突音を聞くまでの間に税関前交差点の南行信号の青色表示が一周期変化した可能性があるかもしれないとする部分が一部みられるけれども、その内容自体極めて不確かである上、同女の税関前交差点の信号機の表示に関する他の証言部分と前記約四一、二メートルを進行する間の運転状況及び進行速度に関する証言に加え、同信号機の表示サイクル上青信号が再び表示されるには最短でも一〇五秒を要することなどに照らして考えると、伊藤の前記証言部分はそれだけを取り出すことは相当でなく、前記認定判断を左右するに足りるものとは認められない。

以上によると、原告の右折開始時における信号表示に関する前記供述は直ちに採用することはできず、それゆえ、原告の同主張も採用できない。

(二) また、原告は、本件事故当時、南行車線上には街路樹の枝葉がせり出していたため、被告及び西岡が本件交差点の対面信号の表示を確認することができたはずはない旨主張する。

しかしながら、被告の供述及び西岡の証言に照らすと、原告の右主張は直ちに採用することはできないし、また、原告提出にかかる検甲一号証(ビデオテープ)及び甲一九号証の一ないし六(写真)を検討してみるに、確かに、同映像や写真上では、南行車線を走行する車両の運転者からは対面信号の表示が街路樹の枝葉のためにかなり見通しにくい状況にあることが認められるものの、年度毎における樹木の剪定等の状況、撮影年月日及び撮影位置、カメラの撮影角度、運転者及び助手席同乗者の目の高さの位置等の違いに応じて、右見通し状況の様子について少なからず違いの生ずることを否定することはやはり困難であるといわなければならないから、右各証拠をもつてしても、前記認定判断を左右するまでには至らないといわざるを得ない。よつて、原告の右主張は採用できない。

3  原告の過失

そこで、前記1で認定した本件事故の発生状況に基づくと、原告には、前記右折を行うに当たり、対向直進車の有無及び安全の確認を怠つた過失があるといわなければならず、原告の右過失は、損害額の算定に当たつて斟酌するのが相当である。

そして、原告の右過失内容のほか、前記認定にかかる右折車と対向直進車の衝突という事故態様、被告の右方の安全確認の状況、被告車の進行速度、本件交差点及び道路の状況、南行第三及び第四車線の渋滞とこれによる被告の右方に対する見通し状況等を総合して考えると、原告の過失割合はこれを五五パーセントと認めるのが相当である。

それゆえ、前記一10の原告の損害額につき、右割合に従つて過失相殺を行うと、原告の損害額は金四四一万〇三六九円となる。

三  損益相殺

原告がこれまでに損害の填補として合計金一三三七万円の支払を受けたことは前記判示のとおりであるから、これを前項の損害額から控除すると、原告の損害額は金一〇四万〇三六九円となる。

四  弁護士費用

本件事案の内容、訴訟の審理経過及び右認容額等からすると、本件事故と相当因果関係があると認めるべき弁護士費用の額は、金一二万円が相当である。

五  以上によると、原告の本訴請求は、金一一六万〇三六九円及び内金一〇四万〇三六九円に対する本件事故日の翌日(ただし、原告の主張に従う。)である平成二年四月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 安浪亮介)

信号現示図

〈省略〉

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